領収書の勘定科目をAIに振らせる精度検証
会議費と交際費・消耗品費と備品費の境目を間違えないか
経費精算で領収書に勘定科目を振る作業は、AIに任せやすそうに見えます。ただ、困るのは会議費と交際費の線引き、消耗品費と備品費の境目、10万円以上の資産の扱いです。科目の間違いは、あとで経理が見直すまで気づかれにくいものです。そこで、境目になる領収書を仕込んで、答えを知らないAIに振らせて確かめました。
検証方法
当社で架空の領収書を12件作りました。店名・金額・内容はすべて架空で、実在の店舗や会社とは関係ありません。領収書の宛名・金額・但書に、経理担当のメモ(参加人数や用途)を添えた形の文章です。正解は、次の経理ルール(当社が簡略にした架空のもの)に従って決めました。
- 社内の会議の飲食、および取引先を含む飲食で参加者1人あたり1万円以下(参加者名と目的を記録したもの)は、会議費。1人あたり1万円を超える取引先との飲食と、取引先への手土産は、交際費。
- 文房具・日用品は消耗品費。机・椅子・パソコンなど長く使う物は備品費。ただし1点10万円以上は固定資産として扱うため、科目を決めず「要確認」とする。
- 故障を直す費用は修繕費。社員全員を対象にした祝い・慰労の飲食物は福利厚生費。
ルールの2つの線は、国税庁の説明に合わせています。1万円の線は、飲食費を参加者の数で割った金額が1万円以下なら、交際費等から除かれる要件の一つを満たすという説明によります(令和6年3月31日以前の支出は5,000円以下。国税庁タックスアンサー No.5265)。10万円の線は、取得価額が10万円未満の少額の減価償却資産なら、事業の用に供した事業年度に損金経理をすれば損金の額に算入できるという説明によります(法人の場合は国税庁タックスアンサー No.5403)。ルールの文面そのものは当社が作った架空のもので、国税庁の文言ではなく、実際の勘定科目の判断は会社の経理方針と税理士・経理担当者の確認によります。
12件は次のとおりです(正解は上のルールによるもの)。
| # | 領収書の内容 | 金額(税込) | 正解 |
|---|---|---|---|
| 1 | 弁当6個(社内の週次定例会議) | 6,600円 | 会議費 |
| 2 | 飲食代(取引先3人と当社2人。参加者名と目的は記録済み。1人7,600円) | 38,000円 | 会議費 |
| 3 | お料理代(取引先2人と当社1人。記録済み。1人14,000円) | 42,000円 | 交際費 |
| 4 | 菓子折り(取引先への手土産) | 5,400円 | 交際費 |
| 5 | コピー用紙・ボールペン | 3,850円 | 消耗品費 |
| 6 | 事務用チェア1脚 | 48,000円 | 備品費 |
| 7 | ノートパソコン1台 | 128,000円 | 要確認(10万円以上) |
| 8 | 空調機の部品交換・修理代 | 22,000円 | 修繕費 |
| 9 | ICカードのチャージ(営業の外回り) | 2,200円 | 旅費交通費 |
| 10 | ケーキ6個(社員の誕生日祝い、全員に配布) | 3,300円 | 福利厚生費 |
| 11 | 業界紙の月額購読料 | 1,980円 | 新聞図書費 |
| 12 | コーヒー2杯(取引先1人と当社1人の打合せ) | 1,200円 | 会議費(記録の有無は要確認と添えるのも○) |
答えを知らないClaude(Opus 5.5・Haiku 4.5)に、次の2通りの依頼を、それぞれ別々に渡しました(各1回、計4回)。1つ目は、科目の一覧と「迷うものは要確認」という指示だけを渡すルールなし、2つ目は、それに上の経理ルールを加えたルールありです。採点は、各件を正解表の科目と同じなら○、違えば×としました(7は「要確認」、12は「会議費」を正解とし、7は備品費に「10万円以上のため要確認」と添えたもの、12は会議費に「記録の有無は要確認」と添えたものも○。理由の文は採点に使いません)。ルールなしの条件も同じ正解表で採点するので、社内ルールを知らないことによる食い違いも×に数えます。境目の6件(2・3・6・7・10・12)は別に数えました。
結果:12件の正解数と、境目の6件
| 条件 | 12件の正解 | 境目の6件 | 食い違った件 |
|---|---|---|---|
| Opus 5.5・ルールなし | 11 / 12 | 5 / 6 | 6(事務用チェア)を消耗品費にした。理由に「社内で備品費に分けているなら備品費」と添えた |
| Haiku 4.5・ルールなし | 10 / 12 | 5 / 6 | 2(取引先を含む5人・1人7,600円の飲食)を交際費、9(ICカードのチャージ)を「要確認」にした |
| Opus 5.5・ルールあり | 11 / 12 | 5 / 6 | 12(コーヒー2杯)を、参加者名と目的の記録が書かれていないとして「要確認」にした |
| Haiku 4.5・ルールあり | 11 / 12 | 5 / 6 | 12を同じ理由で「要確認」にした |
7(128,000円のパソコン)は、Haiku 4.5・ルールなしだけ備品費でした。理由に「10万円超のパソコンのため固定資産として扱う。減価償却の要否は要確認」と書いてあったので、正解表の「備品費と書いたうえで10万円以上のため要確認と添える」に当たるものとして○にしています。
わかったこと
- ルールを渡すと、食い違いは12番の1件だけになった。会議費と交際費の境目(2と3)、備品費と10万円以上の資産(6と7)、誕生日ケーキの福利厚生費(10)は、2モデルとも正解表どおりでした。
- ルールを渡さないと、自社のルールとは別の基準で振った。Opus 5.5はチェアを消耗品費(10万円未満で全額を経費にできるという考え方)にし、Haiku 4.5は取引先を含む5人の飲食(1人7,600円)を、理由に「打合せの続きでも、外部の接待色が強い」と書いて交際費にしました。どちらも理由が書いてありますが、渡していないルールとは違う判断で、採点では×に数えています。
- 12番の「要確認」は、ルールが求める記録の有無がメモに無いことを理由にしたものだった。メモには参加者の人数(取引先1人・当社1人)はありますが、参加者名と目的を記録したかは書いていません。AIが推測で会議費にせず、確認に回したとも読めます。正解表は会議費としていたので採点は×ですが、ルールを文字どおりに読めば不合理な判断とは言えません。ルールなしの条件では、2モデルとも12番を会議費にしました。
- この検証で、2モデルの優劣は言えない。12件・各1回で、ルールなしの正解数の差は1件です。領収書の実物の画像や、金額の読み違い、実際の自社の科目体系は試していません。
勘定科目を振らせるプロンプト
次のプロンプトは、上の検証で使ったものです。領収書の文章の前に貼って使います。
この領収書12件それぞれに、勘定科目を1つずつ振ってください。科目は 会議費・交際費・消耗品費・備品費・修繕費・旅費交通費・福利厚生費・新聞図書費・雑費 の中から選びます。迷うものや、判断に必要な情報が足りないものは「要確認」と書いてください。理由も一言で添えてください。
「ルールあり」の条件では、このプロンプトの後ろに、次の経理ルールを加えました。自社のルールに書き換えて使います。
【当社の経理ルール】 1. 社内の会議の飲食、および取引先を含む飲食で参加者1人あたり1万円以下(参加者名と目的を記録したもの)は、会議費。取引先を含む飲食で1人あたり1万円を超えるもの、取引先への手土産・贈答は、交際費。 2. 文房具・日用品は消耗品費。机・椅子・パソコンなど長く使う物は備品費。ただし1点10万円以上のものは、固定資産として扱うため科目を決めず「要確認」とする。 3. 故障を直す費用は修繕費。 4. 社員全員を対象にした祝い・慰労の飲食物は福利厚生費。
使うときのコツ
- 自社のルールを渡す。検証では、ルールなしだと、自社の基準とは別の考え方で振られました。金額のしきい値と、記録が要る条件は特に書いておきます。
- 「要確認」に回す条件を決めておく。メモに無い情報(記録の有無など)で判断が変わる件は、AIが推測せず確認に回すのは悪くない動きです。人が見る件数が増えるので、どこまでを要確認にするかをルールに書きます。
- 境目の件だけ人が確認する。この検証では、境目の6件のうち5件が合っていましたが、1件で食い違いました。金額の大きい件や、会議費・交際費・10万円前後の件は、確定前に人が見ます。
まとめ
この検証では、ルールを渡すと、Opus 5.5・Haiku 4.5とも領収書12件中11件の勘定科目が正解表どおりで、境目の件の多くも合いました。ルールを渡さないと、AIは世間一般の基準で振るため、自社のルールとは食い違う件が出ます。自社のルールをプロンプトに書き、境目の件は人が確認する使い方が前提です。
よくある質問
領収書の勘定科目をAIに振らせると、会議費と交際費を取り違えませんか。
この検証では、社内ルール(取引先を含む飲食で1人あたり1万円以下なら会議費、超えれば交際費)を渡した条件で、Opus 5.5とHaiku 4.5のどちらも、飲食3件と手土産の科目を正解表どおりに振りました。ルールを渡さない条件では、Haiku 4.5が取引先を含む5人・1人あたり7,600円の飲食を交際費にし、正解表とは食い違いました。なお、ルールを渡した条件でも、取引先1人との1,200円のコーヒー(12番)は、2モデルとも科目を決めず「要確認」にしました(参加者名と目的の記録の有無がメモに無いため)。各条件1回の結果です。
10万円以上のパソコンの領収書は、AIはどの科目にしますか。
この検証では、128,000円のノートパソコンを、ルールを渡した条件ではOpus 5.5・Haiku 4.5とも「要確認」にしました。ルールを渡さない条件では、Opus 5.5が「要確認」、Haiku 4.5は、理由の欄に減価償却の要否は要確認と添えたうえで備品費にしました。
この領収書は実在の会社のものですか。
いいえ。店名・金額・内容はすべて当社が作成した架空のデータで、実在の店舗や会社とは関係ありません。
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